ただ信頼に応えんと最善を尽くす
「It's an irony of our age that robots, unconcerned with ego, may be busy putting disfluencies into their speech just as humans, occupied with their self-images, are undergoing tough training to take them out.
自己イメージにとらわれた人間が言い淀みをなくすための厳しい訓練を受けているというちょうどそのときに、自我に無頓着なロボットが自分らの話にそれら(=言い淀み)を加えようと躍起になっているというのは、現代の皮肉である。 」
・・・これは桐原書店が出版する高校3年生向けコミュニケーションの教科書「Heartening III」にある1文だ。訳は私がやってみたが、どう考えても高3生には、たとえそれなり英語が得意という生徒にも、正確に訳すのはまず無理。
「When you have overcome a problem, it gives you unique authority and experience to help others, taking what may have been a tragic or physically painful experience and transforming it into part of a greater "landscape" of love and generosity.」
他の章からの1文。先日触れた「金継ぎ」に関する名エッセーだ。この筆者はいわゆる「分詞構文」を多用する。文中「taking」をどう訳すか。多様な訳がありうる分詞構文のどの意味合いで解釈し、そして何より「take」という無数とも言えるほどの訳が可能な基本語をどう処理するか。(よろしかったら試訳なさってみてください。)
トップの大学が高3水準を超える問題を出すのは何も英語科に限ったことではないだろう。ふつう無理難題と思われるものを出題する目的が偏差値上位0.1パーセント以内とかの超秀才を発掘することなら、まあ、そういうのもありなのだろう。そんな問題が過去に大学入試で出されたからこそ桐原の編集部もそれに対応したということか。
しかしだ。この教科書を採用し、私がお教えしている生徒さんらが所属する高校は長野県のトップ校ではない。松本や大北(大町市と北安曇郡)地域にある高校の中でせいぜい5番手くらいか。ではそこの英語教師らが志高く指導しているのかと云えば、まったくそんなことはない。例年生徒らに買わせた教科書を大幅にやり切れぬまま終わっている。いったいどういう意図でこんなに程度の高い教科書を採用したのか。まさか、「おまけ」目あて・・・とは思いたくない。
私が高1からお教えしている今高3の生徒さんらは本当に熱心なので、私も事業準備に時間をかける。「こんな文章、文構造や語法、文法を詳説していたらいくら時間あっても足らない!」というような、つまり上で紹介した2文のようなものが満載のpassagesだらけなのだが、兎に角彼ら彼女らの期待に応えたいのだ。復習テストの作成込みで5時間、授業時間2時間半。報酬は1時間半分だけなのだ。
文句を言いたいのではない。こんな高度な教科書を買わされ、しかもしっかりとした進度で分かりやすく教えてもらっていない彼ら彼女らにまず同情しているのだ。そして私を信頼してくれている以上、私のなりの最善を尽くすだけ、ということなのだ。
コメント
コメントを投稿